高血圧について
心臓から送り出された血液が、血管壁を押す力のことを血圧と言います。
この血圧が高い状態が続いている病気が、高血圧症です。血圧は常に変動しており、高血圧の基準は病院で測定した場合とご自宅で測定した場合とで異なります。病院で測定した場合、収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、拡張期血圧(最低血圧)が90mmHg以上の場合が高血圧と診断されます。一方、ご自宅で血圧を測定する場合は、収縮期血圧(最高血圧)が135mmHg以上、拡張期血圧(最低血圧)が85mmHg以上で高血圧症と診断されます。病院よりもリラックスできるご自宅での測定では、基準値が低く設定されているためです。
動脈硬化が進むと血管が硬くなり、心臓は強い力で血液を送り出すため血管の壁に大きな負担がかかります。この状態が長く続くと高血圧に繋がります。
高血圧の原因
高血圧には2種類あり、原因となっている病気がない「本態性高血圧」と、ほかの病気によって起こる「二次性高血圧」があります。本態性高血圧は、遺伝要因と生活習慣が組み合わさって起こると考えられており、日本の高血圧症の約90%が本態性高血圧であると言われています。
高血圧の状態が長く続くと、血管の壁が圧迫され、動脈硬化が進行します。
動脈硬化が進行すると血管が硬くなり、血流が悪くなるため、血液を流すために心臓はより強くポンプを動かす必要が生じ、血圧が上昇します。このように、高血圧と動脈硬化には強い相互関係があります。
遺伝
高血圧症には遺伝も関係しています。
両親がともに高血圧症の場合、お子様も高血圧症になる可能性は50%、片方の親が高血圧症の場合、お子様も高血圧症になる可能性は30%と言われています。
実際には、高血圧症になりやすい体質が遺伝するものの、食生活などの環境要因も影響していると考えられています。
塩分の過剰摂取
人体は、体内の塩分濃度を一定に保つようにできています。食事から摂取する塩分が多いと、体は水分を増やして塩分濃度を下げようとし、血液量も増えて血圧が上昇します。
運動不足
運動不足になると血行が悪くなり、血圧が上昇します。特に、デスクワーク中心で座っている時間が長い方は、血圧が上昇しやすいので注意が必要です。
肥満
脂肪細胞から分泌される物質の中には、血圧を上昇させたり、動脈硬化を進行させたりするものがあります。また、インスリンの作用が弱くなったり、交感神経が活発になったり、血管が細くなったりします。
特に内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)の方は要注意です。肥満の方は体重が増えると血流が増え、心臓に負担がかかります。
過剰なストレス
過剰なストレスは交感神経が優位になり、心拍数が増え、血管が収縮します。その結果、血圧の上昇に繋がります。
アルコールの過剰摂取
毎日過剰に飲酒する習慣があると、血圧が上昇し、血中中性脂肪値が上昇することで、動脈硬化の進行に繋がります。
また、血圧以外にも、飲酒は肝機能障害や各種がんのリスクが高まるなど、健康に悪影響を及ぼします。お酒はあくまで嗜好品の域を越えない程度に、適量で楽しみましょう。
喫煙
タバコにはニコチンと呼ばれる物質が含まれています。ニコチンは交感神経を優位にし、血圧を上げるホルモンの分泌を促し、血管を収縮させます。また、血液中の活性酸素が増加することで動脈硬化に繋がります。
高血圧がもたらす疾患
本来、血管の壁は柔軟で弾力性がありますが、長期間にわたって高血圧の状態が続くと、血管が常に圧迫されるため、次第に血管の壁が厚く硬くなっていきます。
そのまま高血圧の状態が続くと動脈硬化が進行し、全身のあらゆる血管が厚く硬くなり、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、大動脈瘤、眼底出血、腎硬化症など、多くの病気を引き起こすことになります。また、心臓に負担がかかり、心臓肥大や心不全に繋がる危険性もあります。そのため、このような重篤な病気を発症しないためにも、高血圧を予防することが大切です。高血圧の方は早めに医療機関で適切な治療を受け、正常な血圧に戻す必要があります。
高血圧の検査と診断
血圧を測定する際には、上腕にカフという腕帯を巻きつけて血圧計に接続する方法が一般的です。椅子にゆったりと座り、上腕の位置が心臓と同じ高さになるようにして、何度か血圧を測定します。測定値の平均が、高血圧の範疇に入っているかを確認します。
診断の基準
高血圧は、下記のように軽症から重症まで分類できます。
軽症高血圧 | 最高血圧140-159mmHg/ 最低血圧90-99mmHg |
---|---|
中等高血圧 | 最高血圧160-179mmHg/ 最低血圧100-109mmHg |
重度高血圧 | 最高血圧180mmHg以上/ 最低血圧110mmHg以上 |
病状が重く、コントロールが不十分な場合、脳卒中、心筋梗塞、心不全などの重篤な病気のリスクが高まるため、早急な治療が必要になります。
高血圧の治療
高血圧の治療は、生活習慣の改善と薬物療法によって行います。
まず、生活習慣の見直しについて詳しくご説明します。
生活習慣の改善は高血圧だけでなく、脳卒中、心臓病、糖尿病など多くの病気に対して有効です。健康寿命を延ばすために、以下のことに取り組んでいきましょう。
生活習慣の見直し
塩分摂取量の管理
かつて日本人の塩分摂取量は20gと非常に多く、脳卒中の発症者も現在の10倍近く存在していましたが、脳卒中対策として減塩が重要視されるようになり、1987年頃には11.7gまで塩分摂取量を減らすことができました。しかし近年では、インスタント麺やハンバーガーなどのファストフードを好む方が増えたため、塩分摂取量が増加傾向にあると考えられています。健康な方の1日あたりの食塩摂取量の目標値は、男性で7.5g、女性で6.5gですが、高血圧患者様では6gを目標とします。
特に日本人は食生活から塩分を摂取する機会が多いため、外食を控えたり、香辛料や減塩調味料を活用したり、工夫をすることが必要です。例えば、カップ麺1杯には約5.5gの塩分が含まれているため、カップ麺1杯だけで1日の塩分摂取量にほぼ達してしまいます。
体重管理
体重コントロールには、自分の標準体重を知ることが大切です。
標準体重の計算式は「22×身長(m)の2乗」です。
22という数字は、身長と体重から算出されるBMI(ボディマス指数)の標準値です。BMIの標準値が22である理由は、多くの研究からBMIが22の時に病気にかかるリスクが最も低いことが分かっているためです。
BMIの計算式は「体重(kg)÷身長(m)の2乗」です。
BMIが25以上、または標準体重より20%以上オーバーしていると肥満と診断されます。肥満は生活習慣病のリスクを高めますので、減量が必要になります。
また、標準体重であっても、脂肪が蓄積されている場所によっては、病気になりやすい状態である可能性があります。
例えば内臓脂肪が多いと病気になりやすいので、運動療法や食事療法が必要になります。肥満の人が体重を4kg減らすと、血圧を下げる効果が現れやすいと言われています。
適度な運動
定期的に運動している方と運動不足の方の血圧を比較すると、後者の方は血圧が高い傾向にあります。血圧を下げるには運動療法が有効で、筋トレなどの「静的運動」よりも、ウォーキングやランニング、水泳などの「動的運動」は効果が出やすいと言われています。また、激しい運動はかえって血圧を上昇させるので避けましょう。無理なく続けられる軽い運動を習慣づけましょう。
禁煙
喫煙は動脈硬化の危険性を高めます。血圧を下げる治療は動脈硬化の予防にもなりますが、喫煙の習慣があると、血圧の治療をしても十分な効果が得られません。
また、ストレスを溜め込みやすい方にも動脈硬化になりやすい傾向があると言われています。さらに、冷えによる刺激も血圧を上昇させる原因となります。寒い冬場、暖かい室内から寒い屋外へ移動する際の気温差には注意が必要です。
飲酒
かつては適量の飲酒が心臓病のリスクを下げるとの報告もありましたが、近年の研究ではそうではないことが分かってきました。
飲酒が健康に与える影響は量や頻度によって異なりますが、少量でも健康を害する可能性があると考えられています。量に関わらず、乳がんや大腸がんのリスクを高めることも知られており、また摂取カロリーが増えるため体重の増加にも繋がります。
薬物療法
高血圧の治療には、以下の薬が用いられます。
- 利尿薬:尿の量を増やし、ナトリウムと水分を体外に排出します。
- アンジオテンシン(ACE)変換酵素阻害薬:血管を拡張し、血圧を下げます。
- アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB):血管を拡張し、血圧を下げます。
- カルシウム拮抗薬:血管を拡張し、血圧を下げます。また、心拍数を遅くする作用もあります。グレープフルーツとの相互作用があるため、薬の服用中は、グレープフルーツやグレープフルーツジュースは摂取できません
- その他:上記の薬は、年齢、腎機能、心臓病や糖尿病などの合併症の有無などを考慮して、第一選択薬として使用されることが多いですが、第二選択薬以降として他の薬が使用されることもあります。
どの薬にも利点と欠点があるため、患者様それぞれの状態に応じて適切な薬が処方されます。