ピロリ菌とは
ピロリ菌は、正式には「ヘリコバクター・ピロリ菌（Helicobacter pylori）」と呼ばれます。胃の粘膜に感染し、強酸性である胃酸の中でも生き延びることができる細菌です。ピロリ菌に感染すると、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃ポリープ、胃MALTリンパ腫など、様々な病気に繋がる可能性があります。2014年の世界保健機関（WHO）の発表によると、世界で発生する胃がんの80％はピロリ菌が原因とされており、除菌治療が胃がんを予防するのに有効であると考えられています。日本では、成人の約50％がピロリ菌に感染していると言われており、感染が確認された場合は除菌治療を受けることが推奨されています。一定の条件を満たせば、検査や除菌治療にかかる費用は保険適用となります。例えば、ピロリ菌が原因で起こる慢性胃炎や早期胃がんが胃カメラ検査で発見された場合、または胃潰瘍、十二指腸潰瘍、MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病の治療を受けている場合などは対象です。詳しくは、当院までお気軽にお問い合わせください。
先進国の中で高い日本のピロリ菌感染率
ピロリ菌の主な感染経路は、井戸水など生活用水からの経口感染です。衛生状態が良くない地域では感染率が高いですが、先進国ではあまり見られないとされています。 日本では現在、先進国としては珍しく感染率が高く、人口の約50％が感染していると言われています。過去の調査によると、日本の感染率は年代によって大きく異なり、10代、20代の若年層では低く、40代以上で高いことがわかっています。ピロリ菌は免疫が未発達の乳幼児期に感染することが多いと考えられており、世代間の感染率の違いは、乳幼児期には水道や下水道が普及していなかったことが原因であると考えられています。 そのため、今後は感染率が減少していくと見られていますが、現状では完全に無くなる可能性は低く、安心はできません。 また、感染経路は経口感染以外にも考えられていますが、現時点では明らかになっておらず、未だ有効な予防策も確立されていません。
ピロリ菌の診断方法
ピロリ菌の感染検査には、大きく分けて内視鏡を使う検査と使わない検査の2つがあります。
内視鏡を使った検査
胃カメラで胃粘膜をリアルタイムで観察し、検査中に異常な病変が見つかればその場で組織を採取します。採取した組織を迅速ウレアーゼ検査に出すことで感染の有無を調べることができます。
迅速ウレアーゼ検査
ピロリ菌は尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する酵素「尿素分解酵素」を産生します。 この仕組みを利用したのが迅速ウレアーゼ検査で、採取した胃粘膜組織をアンモニアと反応する試薬に加え、試薬の色の変化を観察することでピロリ菌の有無を判定します。 なお、胃酸の分泌を抑える薬などを飲んでいると、正確な診断が難しくなるため、検査を行うことができません。
内視鏡を使わない検査
ピロリ菌は、内視鏡を使わない方法でも調べることができます。除菌治療がうまくいったかどうかを評価するために、この方法が用いられることもあります。
抗体検査
ピロリ菌に感染すると体内で抗体が生成されます。この抗体の有無を調べるのが抗体検査です。抗体は通常、血液から測定します。
便中抗原検査
便中抗原検査は、便の中にピロリ菌の抗原があるかどうかを調べる検査です。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌の感染を調べる検査で陽性となった場合は、除菌治療を受ける必要があります。除菌治療は薬物療法で行い、治療後に除菌の成功を判定します。1次除菌では約90％の方が除菌に成功しますが、除菌が成功しなかった場合でも2次除菌を行うことで約80％の方が除菌に成功するとされています。2次除菌までは保険が適用されます。
ピロリ菌感染による病気をお持ちの方は、まず、その病気の治療を除菌治療より優先して行います。除菌効果を評価するための呼気検査の当日は飲食を控えてご来院ください。
1次除菌
2種類の抗菌薬と、その効果を高める胃酸分泌抑制剤の1種類を朝と晩に各1回、1週間服用します。除菌治療から約2ヶ月後に除菌判定検査を行います。
除菌不成功の場合は2次除菌を行います。
2次除菌
方法は1次除菌と同じですが、抗菌薬の種類が変わります。
2次除菌が不成功の場合は3次除菌が可能ですが、その場合は自費診療となります。
3次除菌
3次除菌の費用は全額自己負担となります。2次除菌まで不成功だった場合、ピロリ菌が薬剤に対して耐性を持っている可能性があるため、抗菌薬の種類を変えたり、治療期間を延長したりするなど、除菌方法の変更も検討します。
除菌治療の副作用
ピロリ菌の除菌薬を使用するとアレルギー反応が起こることがあり、副作用として、皮膚の痒みや発疹、腹痛、下腹部の張り、下痢、血便、発熱、味覚異常、肝機能値（AST（GOT）、ALT（GPT））の変動などが報告されています。これらの症状が現れた場合は、薬の服用を直ちに中止することで、多くの場合で症状は自然に治まりますが、重症化を防ぐために医師への受診をお勧めします。 また、除菌治療後、胸焼けや逆流性食道炎の症状が現れることがあります。これは、胃酸分泌抑制剤の服用を止めて胃酸の分泌が正常に戻ったときに起こる一時的な症状です。 また、除菌薬には抗菌薬が含まれるため、これで下痢を起こす方もいらっしゃいます。日常生活に支障がない範囲の下痢であれば、除菌の完了を優先し、薬の服用を継続していただくことがあります。